新しい旅
帰って計算してみると20年ぶりだった。
生まれ故郷の松山。
生家から北を仰ぎ見るといつも見えていた
松山城跡。
小高い丘は、桜の季節には
その丘自体がピンク色に染まる。
その場所にふとした気まぐれで赴いた。
登り口に立った瞬間の草いきれ。
湿った空気に溶けている緑のかおり。
自然の記憶は、僕の奥底に残っていて
あっという間に20年を取り戻してくれた。
夕暮れ前の田舎。
幼い頃見た景色が、何も変わらずそこにある。
ところどころから立ち上る煙。
畑の匂い。
鳥の声。
うっそうとした木々の中に
ひっそりとたたずむ神社も、
少年の頃の夏祭りのまんまだった。
お神輿かつぎの出発前に行われる儀式は、
神社の境内でみなが神前に正座する。
神主さんが捧げる祝詞(のりと)と、
けたたましい蝉時雨が不思議とマッチしていた。
先日お会いしたばかりの有留修さんのことを思い出した。
http://jp.ohsumi-retreat.org/index.html(大隅リトリート)
20代からのほとんどを海外で過ごした有留さんが、
故郷の大隅半島に戻ってきた時、
「その全てが宝に見えた」と語っていた。
あれほどイヤだった自分が生まれた田舎。
その全てに僕は感動していた。
東京に沖縄に、海外に探し歩いた夢の楽園が、
何も語ることなくただ、眼下に広がっていた。
ただただひっそり、お前の帰りを待っていたんだと
優しくたたずんでいた。
僕はここで何が出来るだろう。
これから時間をかけて、
僕は生まれた場所を目指す旅を
始めるのかもしれない。
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